このHPをよく見ていてくれる人はお気づきでしょうが、額を頼まれることが 結構、多い。出来合いの額に良いものがあまりないせいでしょうか。額装って あまり注目されることのない分野だけど、絵を生かすも殺すも額次第。 今回は小泉今日子さんからの注文で、ちょっと凝ったものを2点、作ってみました。 |
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まず絵をじっくり眺めて構想を練る。これは彼女主演の映画「風花」のタイトルバックで跳ねていたカエルで、私の本の帯にも推薦文を寄せて頂いた葛西薫さんの作品。飄々とした味わいから、なんとなく禅宗の坊さんがさらっと描いたような印象を受ける。 |
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禅画からの印象で丸い額にしたらどうだろうと思いつく。ちょっと書院造り風の窓みたいな細い柵木で装飾をするとか? こういうときには参考資料。漠然としたイメージをはっきりさせるには資料は大事。 |
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大きさを決めたら、いよいよ製作。ある程度厚みがあった方がいいので24ミリの合板を使用。まずはジグソーで切り抜く。 |
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ジグソーで抜いた枠を削ってラインを整える。エッジもなめらかに丸めたいので相当に削り込まなくては。ラインが出来たら、合板の質感を消すために全面 的にパテを塗るのがこのあとの工程。 |
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パテ塗りして塗装中の外枠が乾くのを待つ間に、格子状に入る予定の柵木の製作。十字に組み合わせるための溝を細い材木に切り込んでいく。ま、普通 、こんなことを丸鋸ではやらないと思うけど。良い子は真似しないほうがいいよ、危ないからね。 |
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さて塗装も乾いたし、材料も切れたし、今度はこの2つをうまく組み立てなければいけない。やったことのないことだから、うまくいくかどうか、お楽しみ。 |
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合体させる前に、まず格子を組んでいく。下に図面をひいて規則正しい間隔がずれないようにしながら、木工ボンドで接着。細工物の世界だな、これは。 |
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格子が組みあがったところで、本体と一体化させる。撮影用のものなら強度はいらないのだけどずっと飾ってもらうものはそれなりにしっかり出来ていないと。格子の端があたる部分を彫って差し込んだ上で、しっかりと接着する。これが、また!めんどーで。誰だ、こんなこと考えたやつは。 |
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組み立て、完了。同じ艶消しの黒で塗装する。書院造りの窓のような「細い線で構成された繊細さ」のようなものを狙ったつもりなんだけど、どうだろうか? |
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こちらも和紙でマットを作る。額装に対し、東洋美術の書画などをきちんと飾れるようにすることを「表装」と言いますが、今回は絵の雰囲気に合わせて表装風の額装、という珍しいことをしてみました。 |
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これは中国の少数民族ナシ族の使用する象形文字、トンパ文字で書かれた彼女の名前だそうな。色合いも図柄も素直にかわいい。なんとなく「おめでたい感」も漂っている。「これをなんか“にぎにぎしく”して欲しい」というのがご本人からの注文。 |
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本人しか解らない無茶苦茶ラフなラフスケッチ。打ち合わせなどが必要ない今回のような場合でも自分のアイディアを整理するためにこういうものは描く。こちらの絵は縦長の形がかわいいので、それにあわせて額も縦長。余白はどのぐらいで、額縁自体の幅はどのぐらいがバランスがいいか、定規片手に決めていく。 |
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やっぱり「チャイナ感」を出したいのでラーメンどんぶり模様を縁に彫刻することにする。資料から模様をさがし、原寸の図面 の上に置いてみる。こういうのってほんとはパソコン上でレイアウトすればすっごく早いのだろう、と思いながらもローテクな手作業。小学生用みたいなハサミが泣けるっしょ。 |
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サイズが決まったら材木を切る。45°にカットして内側にトリマーで溝を掘ったあと組み立て。ここまでは結構、早くできるのだけどね。工具は偉大だな。 |
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ローテクな方法で作った模様を表面に直接、張り付けていつものミニルーターで彫刻していく。線の部分を彫るのではなく、まわりを彫って線を残す、というデザインにしてしまったので予想以上に時間がかかった。こんな小さなものなのにやってもやっても終わんないんだもんなぁ。自分でデザインしたので文句も言えず。 |
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やーっと彫りが終わったところで軽くペーパーをかけてサーフェイサーを吹いてみる。時間、かかったなぁ。ルーター使ってもこれだもの、昔の職人はすごいよね。そんでやっぱり工具は偉大だ。 |
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中国系のおめでたい、と言うと翡翠のグリーンかな、と思って手近にあった缶 スプレーの近い色を塗ってみた。が。どうも安っぽいのでこのあと却下。ちゃんと調色した色で塗り直しました。 |
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ただ中華模様だけじゃつまらないので、何カ所かに飾りを埋め込む。螺鈿用の貝よりいろんな色があるので大きめの貝ボタンを買ってきて切断。で、ひとつ発見。やっぱカルシウムなのね、削ってる時、歯医者で治療されてるのとまったく同じにおいがした。赤いのは珊瑚の粉を固めたもの。 |
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これは普通の額装でいうマットの部分。どことなくチャイナで派手な和紙をみつけたので厚紙と張り合わせてマットがわりにしてみた。ついでに角にチャイナボタンで飾りをつける。“にぎにぎしく”なってきたぞ。 |
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あまり本気で中華風のにぎにぎしさにしてしまうと、たぶん部屋に合わない。たとえば中華街で売っているような刺繍いりのバッグなんかでも、普通 に今の服に合わせて持って歩けるものとちょっとこれはきつい、というものがあると思うのですね。だから今のインテリアの中に馴染むような“にぎにぎしい”チャイナ風をねらってみたんだけど。いかがっすかね? |
めでたく完成して、それぞれに絵をいれてみました。自分では相当、満足な出来。不景気のせいか流行のせいか、最近、作り込むような仕事が減っています。おかげで製作に苦労したり悩んだりするオーダーがめったにない。ラクなのはいいんだけど、ちょっと物足りなくもある。
そんなわけでこういうデザインからまかせてくれるような仕事が来ると、思いっきり難しくて、面倒そうで、やったこともないようなことに挑戦してみたくなります。性(さが)ですな。いやぁ、ひさしぶりにねっちょり作り込んで楽しかった!
こういう発注をしてくれた小泉さんに感謝、 物撮りをしてくれた小暮さんに感謝、掲載を快諾してくれた葛西さんに感謝です。みなさん、どうもありがとう。 |